■5α−リタクターゼの受容体(レセプター)要因説

男性ホルモンが毛根の毛母細胞に入りますと、毛根は細胞分裂をやめてしまいます。
しかし毛根に悪影響をおよぼす男性ホルモンは、睾丸で作られるテストステロンではなく、5α−ジヒドロテストステロン(5α−DHA)というさらに強力な男性ホルモンです。毛乳頭や皮脂腺には5α−リダクターゼという酵素が存在 し、この酵素の還元作用でテストステロンは5αーDHAに変化するのです。

若い男性の睾丸ではどんどんテストステロンが作られます。これが毛乳頭と皮脂腺で多量の5α−DHAに変化し、毛母細胞に運ばれます。5α−DHAは毛母細胞が細胞分裂するときに起きるタンパク合成を邪魔し、別のタンパク合成を することにより、細胞分裂が止まってしまうのです。そのために早々と毛母と毛乳頭が離れてしまいます。
つまり、本来なら最低でも二年ある成長期が半年か一年で退縮期から休止期へと移行してしまうのです。

5α−DHAの悪さはこれだけではありません。休止期を過ぎれば新毛の発生となるわけですが、このする力すらなくなってしまいます。若ハゲの初期段階で、どうも最近髪の毛が細くなったなと感じるのは、まさしく5α−DHAにより毛母が弱ってきた兆候です。

次の段階では短い毛が抜けだすようになるわけですが、ここに来ると毛母は重体か危篤状態です。その後、地肌が見えだした段階では、すでに毛母は働きをやめてしまっている仮死状態です。多くの人は、地肌がすこし見え始めて、やっと ハゲるのではないかとあわてだすのですが、毛母のレベルで見ますと、もうここに至れば手遅れ状態ということがわかると思います。

いずれにしても、テストステロンが5α−リダクターゼの還元作用で5α−DHAに変化し、この5α−DHAが毛母細胞の細胞分裂を抑制するというのが、 男性ホルモン型脱毛の生理学的な仕組みです。そうすると、同じように多くの男性ホルモンが作られながら、ハゲる人とハゲない人との違いは、テストステロンを5α−DHAに変える5α−リダクターゼという物質の体内での生成量の違い ということになります。ハゲが遺伝するというのも、この5αーリダクターゼが多く生成されるという体質が遺伝するということではないかと言われています。
この体質はもちろん女性にも遺伝します。しかし、女性がハゲない、または薄毛程度でとどまるのは、テストステロン分泌量が男性にくらべ極めて少ないからとされています。女性の男性ホルモン分泌量は男性の1/20ぐらいであり、こ の程度だとそれほど大きな脱毛に進まないのです。ところが男子を産むと、その子はしっかりとハゲの体質を受け継ぐことになります。   

なぜ5αーリダクターゼが多い体質が作られるのか、どうしたらこの物質の体内生成を減らすことができるのか、これらのことが解明されれば、真の医学的なハゲ克服も夢ではありません。


男性ホルモンにはいくつかの種類があり、そのうちのテストステロンという男性ホルモンは5α−リダクターゼという酵素の働きで活性化し、より強力な男性ホルモンのジヒドロテストステロンに変化する

最近では、この5α−リダクターゼという酵素に2種類あることがわかってきました。

T型は陰毛、腋毛、ひげ、頭髪など、発毛部分に満遍なく存在していますが、
U型はひげと前頭部に集中して存在します。

ところが、ひげと前頭部の毛乳頭に共通するのは、男性ホルモンに極めて過敏に反応するということだけで、一方はひげを伸ばし、他方は脱毛の指令を出すのですから、その応答はまるで正反対です。

これは男性ホルモンのレセプターがジヒドロテストステロンを感知するところまでが共通であり、その先のメカニズムが違うためらしいです。
考えられることは、それぞれの毛乳頭で使われているたんばく合成の遺伝子が違うために

  1. 前頭部の毛乳頭が毛の成長を阻害するようなサイン物質を出している
  2. 前頭部の毛乳頭から放出される毛の成長をうながすサイン物質の放出が減る

このいずれかの事態が起こっていると考えられています。

特に前者の可能性は大きいです。ここまで、男性型脱毛症には、

  1. 5α−リダクターゼによる男性ホルモンの活性化
  2. レセプターによるジヒドロテストステロンの感受
  3. 毛乳頭の脱毛サイン物質の放出

という三つのステップがあることがわかりました。男性型脱毛を抑える有力な考え方の一つに、どこかでこの流れを断ち切ってやればよい、というのがあります。

U型の5α−リダクターゼの働きを抑制することで男性型脱毛症が治ることは、実はフィナステライド(「プロベシア」)の作用がまさしくこれなのです。  
次に、男性ホルモンレセプターの活動を阻害して流れを断ち切る方法があります。あるアメリカの企業でこのタイプの薬(外用薬)の研究が実際に進んでいるといいます。
最後のステップである、毛乳頭が出す発毛サイン物質を直接育毛剤とすればいい、というアイデアで、、毛乳頭が出すサインが何かを調べています。
活発に増殖している健康な毛乳頑細胞と男性型脱毛症の人の毛乳頭細胞をそれぞれ培養し、比較してみると、脱毛症の人の毛乳頭細胞は増殖速度が低いです。つまり、脱毛症の毛乳頭は、増殖を促進するような因子を出していないという可能性以上に、″細胞増殖を妨げる″ような何らかの物質を積極的に出している可能性が高いということです。